いうまでもなく有名なカメラである。中判フィルム一眼では確固たる地位を確立しており、月にまで行ったカメラとしても有名な話だ。
そんなカメラが私の手元に来るとは、いよいよ来るところまできてしまった感がある。
お店での出会い
馴染みのカメラ屋に行くとめずらしくハッセルブラッドが陳列されていた。この店でハッセルを見かけるのは初めてだ。
「ハッセルとはめずらしいですね」「一昨日入ったばかりでね。検品もろくにできてないけど」
実はハッセルのことはよく知らない。というのも中判はローライフレックスで十分だと思っていたので知識を持ち合わせていないのである。確か500Cや500C/Mがあって後者がスクリーン交換がやりやすいとかだったような・・・という具合である。
「これは500C/Mですか?」「そう。スクリーンもアキュートマットが入ってるよ。50周年のプレートも付いている」
当たったようだ。アキュートマットといえばミノルタの明るいスクリーンだ。そういやハッセルにも採用されていたなぁと思い出してみたり。また確かに50周年と書かれたプレートが横についている。ライカM4みたいだ。
「ただなぁ、貼り革が縮んじゃって見た目が悪いんよ」
「革が縮む?」「後の方のモデルは縮むんよ。せっかくのカメラなのにこういうところが惜しい」
確かに銀色の下地がよく見えてる。よく確認すると側面なんて半分以上革が剥がれているところもあり見た目がよろしくない。
「せっかくだから見せてくださいよ」
棚から出してもらった。
さすがハッセルだ、スクリーンは抜群に明るい。普段使っているドブのように暗いローライのスクリーンとはわけがちがう。これだけでも好奇心がくすぐられる。
一部チリ・ホコリが見えるがこれはブロワーで飛ばせば簡単に取れるだろう。
レンズは標準の80mmプラナーが付いている。クモリやキズはパッとみた感じない。巻き上げてシャッターも切ったが「パコン!」といい音がしている。シャッター速度も変化しており状態は問題なさそうだ。大口径のツァイスレンズだけあって写りが申し分ないのはわかる。
ハッセルといえばお作法の話が付きまとう。必ずシャッターチャージした状態でレンズを脱着しないと壊れてしまう。一時期コーワシックスを使っていたことがあり、この辺りは最低限理解しているつもりだ。というよりプロが使うカメラだ。逆にそこさえ気にしとけば非常に堅牢だから壊れることはないだろう。
ストラップも純正が付属していた。使用形跡があまり感じられない良い状態のもの。こういうのはストラップが専用金具になっていることが多く、別売りで買うと高くつくのはコーワシックスでよく知っているからありがたい。
ここまで見るとつい欲しくなるのがカメラ好きの性だ。
「おいくらですか?」
この店は新規入荷商品や高額商品に値札がついていないので店主との交渉が必要になる。
「うーん、革もアレだし検品もしてないし、ゆとーむさんが買うなら・・・」
店主から伝えられた金額は相場より10万円以上安かった。
中古品は一期一会であり、とりあえず買ってから考えるタイプであるが、さすがにいつもより桁が多くこの場で「うん」とはいえない。
それだけではない、ちょうど30分後にヘアカットの予約を入れていることもあって、もう店を去らなければいけない時間なのだ。
「ちょっと考えさせてください」「売れても知らんよ笑」
店主のイタズラっぽい笑みがいまでも脳裏に焼き付いている。
その後のヘアカットは言うまでもない。頭の中は終始ハッセルのことでいっぱいだ。美容師とも何を話したのか覚えていない。
再びお店へ
ヘアカットも終わりすっきりした頭で再び店に赴くと、先ほどの位置にちゃんと陳列してあった。
「もう一度見せてください」
ヘアカット中に頭の中でぐるぐる考えた結果、もうこの段階では8割型決心していた。
値段が安い理由の一つである貼り革問題は、移動中にAki-Asahi.comで確認したら革の在庫があったので貼り替えれば問題ないとわかっていたし、未検品問題は今からチェックすればいい。
とはいえ詳しく知らないので、レンズ・マガジンの外し方やスクリーンの交換方法等を店主に聞きながら一個一個確認していった。この時マガジンに不具合が見受けられたが、これは簡単に治るようで整備してから渡してくれるという。店主が修理できる店はこういう所がありがたい。
実はこの隣にもう1本レンズが鎮座されている。見たら50mmのディスタゴンである。広角レンズだ。
「このレンズも見せてください」
標準のプラナーに比べ、長めのレンズとなっている。これもクモリ・キズは見受けられず、シャッターも問題なさそうだ。
どうせ買うなら一気に買ってしまった方が後々のダメージが少ない。標準を買ったら次は広角が欲しくなり、望遠が欲しくなるのは目に見えている。
「おなじならこのレンズもセットで売り切った方がいいですよね?どうです?」
関西人なんでどうしても交渉してしまう。店主も「たしかになぁ・・・」と言いながら買取金額が記録された台帳と見比べながら電卓を叩き始めた。
「これにフードも必要ですね。フィルターもバヨネットのはずだから必要ですね」
畳み掛けるように言いながら、アクセサリーコーナーを漁りに行き、標準用のフードとB60フィルターを見つけ出す。
「さ、全部でいくらですか?」
全部カウンターに並べて最終アンサー待ち。
「頑張ってこの金額でどう?これ以上は無理だわ」
提示された金額はいわゆる標準セットの相場より安い金額だった。
「買いましょう!」
清水の舞台から飛び降りるというのはまさにこういう時のことを指すのだと理解した瞬間だった。
マガジンの整備が終わってからの引き渡しになるので、とりあえずその場は退店。
これまで経験したことがないような高揚感に包まれながらの帰宅となった。
それから1時間後、お店から「整備が完了した」と連絡があった。こんなに早いとは驚いたが引き取りに向かうことに。
まさか同じカメラ屋に1日3回も行くことになるとは・・・。
お迎えした機材
- Hasselblad 500C/M Classic + A12マガジン
- Carl Zeiss Planar CF T* 80mm F2.8 T*
- Carl Zeiss Distagon CF T* 50mm F5.6 T* FLE
このボディが普通の500C/Mではなく500C/M Classicに該当するのは買ってから知った。
Wikipediaによると500C/Mの後継モデルである503CXが発売されていた時代に復刻モデルとして発売されたものらしい。機能は500C/Mに準じているが503CX相当のボディ構造になっているとのこと。
製造年を調べると1991年。執筆時点で33歳のカメラだ。
レンズもCレンズだのCFだのCFiだの種類があるのも買ってから知った。たまたまこの2本はボディと時代があってるみたい。特に広角のディスタゴンにはFLEなる機構が搭載されていて近接撮影で威力を発揮するようだ。
ただこのままだと革が剥がれてしまうので、撮影までに貼り革の交換を実施することにした。
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