このコロッとしたフォルム、なんとも愛らしい。
概要

バルダマチックⅢ。ドイツのバルダ社から発売されたカメラだ。個人的にバルダというと「スーパーバルダックス」のような蛇腹カメラのイメージが強く、このカメラを購入するまでライカ判のカメラが発売されていたことを知らなかった。
Camera-wikiによると、バルダマチックはⅠ〜Ⅲまであり、Ⅰは普通の見た目の距離計連動カメラ、Ⅱで大きなファインダーが搭載され、さらにレンズとシャッターのバリエーションが選べるようになり、このⅢでレンズ交換式となったとある。そう、なんとレンズ交換式なのだ。

順番に見ていこう。まず目を惹くのがこの大きなファインダーである。巨大な四角形を3つ並べるという、なかなか思い切ったデザインだ。国産だとアイレス35 ⅢCもこんな感じよね。左から「ファインダー」「採光窓」「露出計」となっている。
ファインダーのすぐ下にある黒色のダイヤルはシャッター速度を調整するもの。シャッターは同じドイツのシンクロコンパーが採用されており、Bから1/500までシャッターを切ることができる。
またシャッターレリーズも面白く、上述のダイヤルの下にあるノブを下に押し下げるとシャッターが切れる仕様だ。このタイプのカメラはちょっと思いつかない。
レンズはこれまたドイツのシュナイダーのクセナーになっている。50mmでF2.8、使い所のレンズだ。

ファインダー見掛け倒しではなく明るくて見やすい。パララックスは自動補正され、セレンを用いた露出計もファインダーでまとめて見ることができる。よくできたカメラだ。ただ二重像の部分が全体からすると小さく、ピントを合わせるのは少し戸惑うかも。これは個体の問題かもしれない。ちなみにこの個体はセレンが生きており針が動いている。
ファインダーフレームは外から35mm、50mm、135mmとなっている。

背面は前面から想像できないほどシンプルである。「Balda」のロゴが輝かしい。レチナも背面にロゴがあるし、ドイツのデザイナーはこういうのが好きなのかも。

カメラを上から見てみよう。
軍艦部は「フィルム感度を設定するダイヤル」と「アクセサリーシュー」がある。

フィルム感度はASA3200まで対応している。

さらに拡大。
これはレンズを繰り出した状態。最短は3フィート(約90cm)となっている。距離計連動カメラとしては標準的性能だ。

無限遠にすると大変コンパクト。
またシャッター速度、絞り値、距離が一目でわかるのもありがたい。今の状態だと「B・F16・無限遠」。

一番上に赤いトゲのあるものがあるが、これはなんと被写界深度計だ。設定値に応じて連動するのがなんともこだわりを感じる。この辺りはドイツのローライもそうだ。

当然、F値が明るいと被写界深度は浅くなるので赤色のトゲの範囲も狭くなる。
F値でいうとF1.9〜F22までカメラに書かれているけど、このレンズはF2.8のクセナーなので、それよりも明るいF1.9に設定できないようになっている。

底を見てみよう。
左から「巻き戻しクランク」「フィルムメモと三脚固定穴」「巻き上げノブ」となっている。

まずフィルムの巻き上げ。一番右の持ち手を起こし、それをガチャっと回す。それで巻き上げができる。セルフコッキングなのでシャッターチャージもこの操作で完了する。巻き上げは結構軽い。

次に巻き戻し。真ん中にある「T・R」のレバーをRに持っていくと、巻き戻しクランクが本体からパカっと外れ、これをくるくる回すことで巻き戻しができる。
巻き戻しが終わったら、元の穴にクランクをはめてレバーを「T」に持っていくと固定され、また撮影できるようになる。
面白い機構よね。

巻き上げノブのすぐ側にフィルムカウンターがある。減算式なので初めにセットしておこう。

フィルムを装填するのに裏蓋を開けてみよう。
本体向かって左側面に縦に2つ並んだ銀色のボタンがある。これを同時に押すと裏蓋がパカっと外れる。

裏蓋がパカっと外れるタイプなので、例えば外でフィルムを交換したい時などは大変かも。
交換レンズ

バルダマチックⅢはデッケルマウントを採用しておりレンズ交換が可能だ。この個体はシュナイダーのクセナー50mm F2.8が搭載されている。もうこの時点で写りは保証されていると言っても過言ではないだろう。
この他にどんな交換レンズがあったか調べてみると、このレンズよりも明るい「Balda-Xenar 50mm F1.9」や望遠レンズとして「Balda-Tele-Xenar 135mm F4」が存在しているようだ。ファインダーフレームのある35mmのレンズが見当たらなかったので、もしかしたらワイコン使用なのかもしれない。

この絞り羽根の組み合わせ方、たまらないよね。
マウント部もいい造りがされている。

レンズ交換のやり方としては、少し見えづらいがマウント下部にボタンがあり、これを押すとレンズが外れる仕掛け。
レンズの装着は上部の赤点に合わせて嵌め込むだけ。
カメラ自体はデッケルマウントだけど、交換レンズに「バルダ」クセナーとあるように他のデッケルマウントのレンズとは互換がないかと思われる。デッケルマウントって他にも互換がないのがあったと記憶している。
作例









写りに関して言えばクセナーなので申し分ない。シュナイダーのレンズは色乗りがいいとよく言うけど、このレンズも時代を考えれば上等だと思う。コントラストのキツい写真もそつなく写っているし、歪みを見るためにビルを撮ったものも問題ない。ボケ方を見るために開放で銅像を撮ったが、うるさすぎないボケ方だと感じる。肝心な銅像のピントがズレてしまっているが。さすがに逆光耐性はないので、そこは注意が必要だ。
この個体はコレクターの放出品をカメラ屋で購入したもの。「僕が好きなカメラのひとつなんよね」と店主がニコニコしながら使い方を教えてくれ、私もその造りに惚れて気がついたら支払いが終わっていた。
おにぎりのような愛くるしい見た目に様々なギミックが詰まったものとなっており、撮影者を楽しませてくれるとても愛らしいカメラだ。今や1万円ぐらいで買えるので見かけたらぜひ手に入れて欲しい。
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