このカメラは実にシンプルだ。
距離計はないし、露出計もない。あるのはおまけ程度のファインダーと固定されたエルマーのみ。
外観
ライカA型は現在の35mmフィルムを使用するカメラの源流といってよい。
ライカの歴史は至る所で解説されているのでみなさんもご承知だと思うが、実際のところ、このA型から35mmフィルムカメラの歴史ははじまった。
1925年から発売されたライカA型は、レンズは固定式で、当初は「アナスチグマート」が搭載されていたが、次に「エルマックス」、そして「エルマー」と時代が下るにつれ搭載レンズが変遷していった。
アナスチグマートやエルマックスが搭載された個体はとんでもない値段が付くが、本個体のようにエルマーが搭載されたモデルは今となってはお安く購入することができる。
ライカA型にはアイレットは存在しないのだけど、この個体には付けられている。当時のライカは色んな改造を受け付けていたと聞くからアイレット改造していても不思議じゃないけど、通常ならレンズ交換式に改造する「C型改造」や距離計を付ける「D型改造」を同時にすると思うし、ライカ純正改造かと考えると疑問が残る。
軍艦部は距離計はないし、おまけ程度のファインダーがあるくらいなので、スッキリした印象だ。
シリアルナンバーは14000代。いろんな文献を読むと1929年製であることがわかった。和暦だと昭和4年。世界恐慌が起こった年に製造された個体だ。なんとも歴史を感じる。
シャッターはB・1/20~1/500。スローシャッターはない。高速側は1/500とあるが実際には1/400が関の山だろう。
シャッターボタンは「えくぼ」タイプである。外装があまりにアレだから偽物じゃないかと疑っていたけど、シャッターボタンは時代に合っているし本物だと確信した。そもそも偽物作るなら距離計付のD型を作るか。
シャッターボタンの上がリバースレバー。ちなみにフィルムを巻き戻す時はシャッターボタンを押し続けながら巻き戻す必要がある。
レンズ
本個体のレンズは先述のとおりエルマーが搭載されている。キズやクモリはほぼなく90年が経過している割にはレンズの状態はいい。なんで本体だけこんなことになっているのだろう。
さてエルマーなら「もしや旧エルマーじゃないか?」と期待に胸が躍る。ゴルツ社製の硝材で製造されたエルマーを旧エルマーと言うけど、こちらの方がショット社製より写りがいいとか巷では言われている。
ネットで調べると旧エルマーに該当するのはシリアルが10000代未満であるとか13000代未満であるとの記述が見かけられるので、14000代の本個体は残念ながら旧エルマーではないだろう。
またエルマーの中にはエルマックス構成になっているレンズも混在しているが、こちらもオーバーホールをお願いしたときに通常のエルマーだったと回答を受けた。
沈胴させるとめっちゃコンパクト。
伸ばしてもショートエルマーなので取り回しがいい。
作例
早朝のオフィス街。
朝の冷たい空気感が伝わってこない?
バス。
意外に色のりが良い印象。あっさりした感じがちょうどいい塩梅。
ガラス。
線も意外にシャープでよく写っている。
公衆電話。
開放での撮影。目測で1mぐらいだろうと思って撮ったけどやっぱりピンボケ。目測開放最短は難しい。
エレベーター。
どう?90年経ってるレンズでもここまで写るとは感心した。
路地裏。
目測式だからある程度絞ってスナップシューター的使い方するのが合っていると思う。
待合室。
手前のテーブルのボケ感が好き。
車内。
これもスナップ的使い方。この感じが合っているな。
終わりに
距離計はないし、ファインダーもおまけ程度でしかない。撮影するときはいろんな情報が入ってくるけど、このカメラはそれがないから、極端な話本能で撮影するような感じ。これが楽しいんだ。
フィルムを巻いてシャッターを押す、ただそれだけ。ある程度絞っておけば被写界深度がピンボケを防いでくれるし、さすがはエルマーだけあってよく写る。
製造されて90年以上経ったカメラ。今までどんな人が所有し、どんな情景をフィルムに写してきたのだろう。その想いは計り知れないけど、これからは私が次代へと繋いでいく。
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